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日本・ドイツの医薬品支出の推移及び薬剤使用状況の比較(前編)
IQVIAジャパン メディアセミナー(2022年6月27日開催)レポート
Corporate Communications, IQVIA Japan
Jul 27, 2022

IQVIAジャパンは2022年6月27日(水)にメディアセミナーをオンライン開催。昨年12月刊行の米国IQVIA INSTITUTEのレポート「The Global Use of Medicines2022」において、2026年に日本の医薬品市場規模がドイツに抜かれ、世界第4位に後退するというインパクトあるランク変動予測が発表された。それを受け、IQVIAジャパン バイスプレジデントの谷 将孝が「日本・ドイツの医薬品支出の推移」を、また北里大学薬学部臨床医学(医薬開発学) 成川 衛教授による「日本・ドイツの薬剤使用状況の比較」と題したプレゼンテーションで市場環境を比較し、また両者のディスカッションによって考察を加えた。本メディアセミナーの開催レポートはIQVIAのプレゼンテーションを前編、北里大学 成川教授のプレゼンテーション、およびDiscussionを後編としてまとめた。

「日本・ドイツの医薬品支出の推移」(IQVIAジャパン バイスプレジデント 谷 将孝)

日本の医薬品市場は先進主要国で唯一の横ばい傾向

昨年末発表された「The Global Use of Medicines2022」にある通り、過去5年間の世界の医薬品市場はCAGR 5.1%で成長しており、2021年には1.4兆ドルまで拡大している。この先5年間もCAGR 3~6%の成長を続け、2026年には1.75兆ドルを超えることが予測されている。

先進各国の2026年に向けた成長力はおおよそ2~5%が期待されているが、日本だけが-2~1%と横ばいからややマイナス成長の見込みだ。これに伴い、現在世界第3位の日本市場は、2026年にはドイツに抜かれて世界第4位のマーケットとなり、この予測は国内市場でインパクトを持って受け止められている。

ドイツを含む今後の欧州主要地域(EU4:ドイツ・フランス・イタリア・スペイン + イギリス)では、2026年にかけて大型バイオ医薬品の特許が切れるLOE(Lose of Exclusivity)の急拡大が予測されるものの、それを上回る新製品、既存特許品による大きな成長が期待されている。

対して日本は、新製品/既存特許品による成長額と、新規LOE/既存LLP(Long Listed Products:長期収載品)の減少額がほぼ同程度になっていることで、市場全体の成長がフラットにならざるを得ない状況にある。

5つの観点で日本とドイツを比較

  1. マクロ経済視点:GDPの成長力はドイツに軍配
    マクロ経済視点で見ると、過去5年間のGDPの成長力率は、日本の0.3%減に対してドイツは4.0%増とドイツに軍配が上がる。
  2. 人口動態:ドイツの高齢者人口増加が顕著
    人口の推移を2030年頃までの予測を含め比較すると、日本は5年間で-2.0%程度であるのに対して、ドイツは-0.5%前後とどちらも減少しているが、日本の人口減少速度が5年間で1.5〜2%程度早い。また、高齢者人口(65歳以上)を比較すると、世界に先駆けて高齢化が進み、既に高齢者数がピークに達しつつある日本に対して、ドイツは今後も5年間で10%前後の増加が予測されており、医薬品市場の成長にも一定の影響があると考えられる。
  3. 使用されている薬剤:ドイツの特許品市場、特にバイオ製剤の成長が顕著
    両国の2016年から2021年の医薬品支出の推移を、特許品、LLP、ジェネリック、その他のカテゴリーで分析すると、日本では特許品の伸びが3.5%増と限定的なのに対し、ドイツは55.9%増と大きく成長している。成長要因のひとつとして、ドイツではバイオ医薬品が早期に市場浸透したことが挙げられる。2021年のドイツの医薬品市場規模は日本の70%強であるが、バイオ医薬品のみの市場規模を比較すると、絶対額においてもドイツが日本を上回っている。
    一方で、製品別の市場を細かくみると、両国間で成長領域や市場規模に大きな差は見られない。ただ、日本ではプライマリーケアに該当するARB、喘息などがマイナス成長になっているところ、ドイツではプライマリー系疾患も微増をキープしているという違いが見られる。
  4. 薬剤価格の影響度:日本の薬剤価格低下の影響は甚大
    2012年から2021年までの市場成長率を、数量成長分と価格影響分に分解すると、日本市場は、一定の数量成長を維持しているものの、その成長分を価格影響によるマイナスで相殺する形になっていることが分かる。一方でドイツは、直近の数量成長分が更なる増加傾向にあることに加え、価格による影響も限定的であり、全体として市場の成長が続いている。
  5. 薬剤へのアクセス:現状では大きな差は見られず
    IQVIAのMIDASデータによるNAS(New Active Substances)上市数によれば、4年前以前のNASへの薬剤アクセスはドイツの方が高いものの、直近3年のNAS上市スピードは、日本が優位となっている。
    薬剤アクセスを考えるに際して、本年6月刊行のIQVIA INSTITUTEの最新レポート「Emerging Biopharma’s Contribution to Innovation」も踏まえると、近年小規模ながら存在感を増すEBP(Emerging Biopharma:新興バイオ医薬品企業)の動向に注視する必要がある。2021年の医薬品開発パイプライン数を製薬企業セグメント別*にみると、2021年は開発パイプラインの72%をEBPが占めており、世界市場において中心的存在となっていることが分かる。小規模企業であるEBPによる医薬品開発においては、世界同時開発・上市を狙うメガファーマと異なり、開発・上市する国を優先順位付け、取捨選択するケースも多く見られる。EBPによって開発される多くの革新的新薬へのアクセスを確保するため、いかにしてこうした企業を日本のマーケットに呼び込むことが出来るか、日本市場の魅力を高め、伝えることが益々重要になってくる。

*IQVIAでは企業セグメントを年間の売上げやR&D支出で以下のように定義している。

  • EBP:5億ドル未満、R&D支出2億ドル未満
  • Small Phama:5億ドル以上50億ドル未満
  • Mid-size Pharma:50億ドル以上100億ドル未満
  • Large Pharma:100億ドル以上

日本市場のプレゼンス

現在世界における日本の医薬品支出シェアは、1999年には16%、2016年に7.9%、2021年に6.0%と下がっており、2026年には4.7%まで落ち込むと予測されている。世界第4位のマーケットに後退するというランキング変動に注目が集まっているが、日本市場の世界でのプレゼンスが5%を下回る水準まで低下するという点は憂慮すべきであり、こうしたなかでEBPをはじめとするステークホルダーにどう日本市場の魅力度を伝え、日本への投資や薬剤アクセスを維持するか、議論の必要性があると考える。

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